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田舎暮らしの本 6月号

4月30日(土)
850円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

自由保育の「森のようちえん」は筋書きがないライブ! 自律性と環境観が生きる力に【埼玉県秩父市】

掲載:2022年3月号

森や海、自然のなかでの活動を重視し、子どもの主体性を尊重する自然保育。なかでも北欧諸国発祥の「森のようちえん」は全国に広がり、人気を集めています。東京・池袋から特急で約80分、西武秩父駅から車で20分ほど走ったところにある「花の森こども園」でその魅力を探ってきました。

「写真を撮ります、と言うと寄ってきます」と昭子先生が言っていた通り、センターはヤギのスミレちゃん!

地域の人や卒園生も協力。キーワードは生物多様性

 園庭への門を入ると、そこは明るいカオス。元気に遊ぶ子どもとそれを見守る先生、お手伝いに来た保護者や卒園児のママ、小屋の修理などを担う地域の方、卒論のためにやって来た大学生までいて、その間を2頭のヤギが我が物顔で歩き回る。底冷えする園庭は楽しいエネルギーに満ち満ちている。挨拶もそこそこに、園長の葭田昭子(よしだあきこ)先生とフランクな立ち話が始まる。

 「もともと森のようちえんをやりたかったわけではないんです。うちの子の通っていた私立幼稚園は自己選択でとにかく遊ばせてくれる園だったのですが、教科的な教育に突然シフトすることになりました。それに反対した行き場のない5人で、前の園の流れをくむことをやっちゃう!? と話し合って、半年後には皆野町のムクゲ自然公園にあった食堂を借りて、ようちえんを始めました。それから14年目です」

 前の園で大事にしたこと、改めてやりたいことは?と考え、森のようちえんに行き当たる。そして2019年10月の「幼児教育・保育の無償化」を機に、昨年4月、現住所へと移転。「認定NPO法人 森のECHICA 花の森こども園」としてリスタートした。

 「これまで62人の園児が巣立ちました。来年最初の卒園生が成人式を迎えます。卒園生は運動会では実況や用具係、表彰などで助けてくれます。クリスマス会では演目に参加しちゃうことも(笑)」 

 1月8日に行った餅つき大会では、県内外から120人以上が集まったという。ベーゴマや、書き初め、竹製のけん玉と、園児も卒園生も親もごちゃごちゃになって、新年をお祝いした。

 「地域も深く関心を持って、子どもたちとかかわってくれます。スタッフが認知症のおばあちゃんを連れてきたり、動物も目に見えない生き物もたくさんいる。ここは『生物多様性』がキーワードの場所なんです」

 そうして昭子先生のお話を聞いていると、1人の男の子が農作業用一輪車を巧みに操りながら、たたたっと駆け抜けていった。

とっても気さくな園長の葭田昭子先生。極寒のなか、信じられないくらいに薄着!

焚火、ノコギリ、ブランコと、遊び方は自由! ケンカが勃発したり、泣いてる子は皆無。見知らぬ大人にも臆することがない。それぞれがマイペースに遊び、穏やかな森の時間が流れていく。

雨の日も、子どもが行きたいといえばカッパを着て外遊び。地面を掘って水を流して遊ぶところは「ドナウ川」と呼ぶそう。

木の枝を利用したダイナミックなブランコ。遊具は保護者や地元の人のお手製だ。

一輪車の操り方も一人前!

 

大事なのは自分で考える時間を与えること

 「あれ大人用の一輪車で、結構重いんですけどね」

 昭子先生の言うように、子どもにはなんでも遊びになる。

 「よ〜く見るとあの子、地面に立てられた小さな旗をよけてますよね。あれ、モグラ塚の目印なんです。モグラがぽこんと盛り上げた土の山って面白そうで、つい踏みたくなります。でもその下にはモグラが暮らしている。その子らが土をかき混ぜ、微生物が有機物を分解して土をやわらかくする。それで木が元気になっておいしい空気ができる。こういう森があるから、都会にいても息が吸えるんだよって。そうした循環を保育のなかで体感します。すると園庭の誰もいない一角に足を踏み入れるにも、見えない生き物が立てた音に反応して、子どもは『お邪魔します』という感覚が身につくんです」

 森のようちえんはその形態も方針もさまざま。この園では、環境教育にも力を入れる。

 「寒い冬でも、落ち葉の下にはミミズやちっちゃい虫がいます。目に見えるものがすべてじゃないと子どもにどう伝えるか。野山で遊ばせながらもときどきふりかけみたいに、ぽろぽろって問いかけて待ちます」

 大事なのはその余白。自分で考える時間を与えること。

 「屋内なら〝今日はこのプログラムで〞と先生が主導すれば予測の範囲で進みます。でも野外では予想を外れることがいっぱい。ライブです。それをどう判断して進めるか? 自由保育くらい、先生の能力が問われる教育はないと思います」

園庭にカラフルな遊具はないが、子どもは夢中で遊ぶ。昨年11月の「わくわく秋まつり」では561人もの来場者が!

園庭やお散歩で見つけた鳥の巣や化石。「リスは松ぼっくりをガジガジ食べてエビフライみたいにします。ヒトは自分の歯でそんなことはできません。その生物が生き続けられるように備えられた能力をリスペクトしたら、愛しくなり、どんな命も粗末にしないはず」と昭子先生。

わくわく秋まつりの会場で。ゴミは「土にかえらないもの、割り箸・竹の皮、土にかえるもの、空き缶」で分別。(写真提供/花の森こども園)

 

 さらに「子どもの時間と大人の時間は違うんですよ」と昭子先生は続ける。

 ちょっと来て、と呼んでも5分かかったりするのが子ども。でも大人がその5分を待つのは難しい。それでも先回りして手を差し伸べるように答えを出さず、先生は「そのへんをほうきで掃いたりしながら」、辛抱強く待つ。

 「クリスマス会で『ピノキオ』のお芝居をやったんですけど、主役級を射止めた子は年少のころ脱走犯(笑)。でも大丈夫なんです、子どもはちゃんと自分で律していきますから」

 演目を選ぶのも子ども。つくる段階から子どもを参加させて思いをくみ上げ、モチベーションを充分上げて、たった4日間の練習で本番を迎えた。

 「だってすごい人たちだもん。大人と違い、そんなのできないです〜と物怖じしませんから」

 そうして子どもたちは今日も屋外でのびのび遊び、知らずに環境意識を身につけ、自分で考えて行動する子に育つ。

 「大人になったら幼いころに言われたことなんて忘れちゃうかもしれない。でもそれは問題ないんです。学力や職業も、いろいろでいい。ただ、すべてのベースに環境観があったらいい。〝山を崩してトンネルにします〞なんてことに直面したとき、これでいいのかな?と立ち止まって考え、判断できる人になったらいいなと思いますね」

夏には園庭から続く急な斜面を降りて、川遊びへ!(写真提供/花の森こども園)

お散歩感覚で山登りへ。神社、ようちえん、小学校、武甲山が見える。(写真提供/花の森こども園)

薪ストーブに火が入る冬は、アルミのお弁当箱をストーブで温める。

児童はお弁当か給食かを選択。園庭に持ち出して食べるのも自由。大人はちょっと寒いけど!

CDをかけクリスマス会で演じた、『ピノキオ』を役をかえて再演中。思いを重ねられる役、楽しくできる役はそれぞれ。実際にいろいろ演じて配役を決める。

帰りの会。園舎内や園庭に散らばっていた子どもたちが集まってきて、丸太のベンチにきちんと座り、先生のお話を聞く。絵本の読み聞かせへの集中度も高い。

認定NPO法人 森のECHICA(エチカ)
花の森こども園
 地方裁量型認定こども園。2021年4月から秩父市下吉田に移転。自然保育、環境教育を行う。定員28名。未就学児親子を対象にオープンデーを定期的に実施(1人300円、要事前申し込み)。多世代交流カフェやこども食堂、生きにくさを抱える若者や保護者のための居場所「かなりや」なども運営。団体名は、17世紀のオランダの哲学者スピノザの著書『ETHICA』から。CHICHIBUの森と里山から「いのちの倫理」を学ばせてもらう気持ちで名づけた。

☎︎0494-26-6828 
住所/埼玉県秩父市下吉田7114-3
https://www.hananomori.org/
Instagram/@morinoechica

 

森のようちえん 在園児&卒園児のママに聞きました!

季節によって子どもの感じ取ることも変化

松田裕子さん、晴良くん(3歳)
裕子さんは、小5女子、小2男子もいる3人のママ。

 以前通った幼稚園では朝送迎バスに任せ、子どもに対しての1日が終わっていました。でもここに来て、毎日が濃厚だと気づきました。1日1日違う経験があり、春夏秋冬によって子どもの感じるもの、発見することは変わります。日々、五感を通して生きる力を育みながら、先生方はそうした子どもの内面に重点を置き、一人ひとりきちんと見てくださる。

 だから親も子どもの気づきに寄り添い、考えさせられ、一緒に成長するんです。例えばゴミについて。ここの子どもにとってそれは汚いものでなく、土にかえるものとかえらないもの。ウチではmyトングを買ってあげて、散歩しながらゴミを拾ってます。いい遊びですよね。

スギの葉で遊ぶ晴良くん。あちこちに、近所の人が持ってきてくれた菜っ葉も落ちている。スミレちゃんらの餌になったり、遊び道具になったり。

 

親も深くかかわり、学びが深い

逸見直子さん、青信くん(5歳)
この日はオープンデーのサポートに。「神奈川県から嫁に来て、子育てして思うのは秩父は本当にいいところだということ。コロナ禍でも山があるから、子どもを遊ばせるのに不自由ありません」。

 息子は水が好きで冬でも雨に濡れてべちゃべちゃ遊んでいたのですが、3歳ごろ急に潔癖になり、「濡れたくない、家で遊びたい」と。熱が出たふりをしたり家から脱走したり、なんとか園に行かないようにする作戦ばかりを考える時期がありました。でも園が移転したらまた、ようちえん大好き!になり、成長の過程だったのかなと。

 幼児期に自然に触れることは大切だと思いますが、ただ自然に触れていればいいというわけではないと思うんです。この園では一つひとつのことに深い意図が込められており、親子でたくさんのことを学ばせてもらっています。

園舎の玄関にあるランプは逸見さんの作品。落ち葉をガラスの間に挟んでステンドグラスのようにした。

 

卒園児の保護者も楽しんでサポート

齋藤 馨さん
家業は染め物屋さん。馨さんの義父が子どもたちとTシャツを藍染めして、運動会にみんなで着用したり。この日はせっせと焚き火の番。小5と小1のママ。

 2人の息子がここの卒園児ですが、小5の長男は小さいときから作業が好きで。卒園後も動物の世話や環境整備に必ずついてきます。薪割りを教えてもらったり、面白い大人がたくさんいて楽しいみたいです。私が今日来たのは、小学生以上の子どもたちの居場所づくりを整える、そのキックオフ的なことで。それ以外も、イベント時に助っ人として来たりします。

 遊びに来たお母さんたちが先生の話を聞く間に子どもの見守りをしたり、入園を考える方と話したり。子どもが自由にしているところと自然のなかのこの雰囲気が好きで、つい来たくなるんです。

保護者や地域の人の手を借り、月1回環境整備を実施。川へ続く急斜面に階段をつくるために、チェーンソーの講習を受けた保護者もいるとか。

 

昭子先生から子育て世代へメッセージ

 生物が37億年の進化のなかで、脈々と生命の営みに選んできた場所は「種の保存に適した場所」です。そこは外敵から守られた営巣ができて、豊富な餌があり、狩りや採取に適している。つまり「子育てしやすい場所」です。加えてヒトにとって子育てしやすい場所とは、仲間がいるコミュニティ。それってここのことじゃないかな(笑)。都会で子育てに悩むパパママも、ここに来ればたくさんの発見があると思いますよ。

昭子先生の著書『「ようちえん」はじめました!』(新評論)にも子育てのヒントがたくさん詰まっている。

無農薬、地産地消、発酵と循環をベースにした自園給食。

 

秩父市移住支援情報

 秩父市では「若者移住者(I JUターン)就職奨励金」「空き家リフォーム等工事費助成金」「軽自動車購入費助成金」といった支援制度のほか、「出産祝金支給」「こども医療費支援」「学校給食費支援」「高校生等への通学定期券購入費助成」などの子育て支援が充実。現在「学童保育室」の待機児童ゼロ。東京・池袋まで指定席特急利用で約80分(1500円)と、ゆったり通勤も可能だ。利便性抜群の秩父市でのびのびとした子育てを楽しもう!

移住相談センター ☎︎0494-26-7946

埼玉県秩父市吉田 ちちぶしよしだ
埼玉県北西部に位置し、人口約6万人の秩父市。都心まで約60~80㎞にある自然豊かな地域で、南東に石灰石を産出する武甲山がそびえる。吉田地区へは西武秩父駅から車で約20分。写真の椋神社に奉納される「龍勢祭」は国の重要無形民俗文化財に指定されており、毎年10月の第2日曜に開催される。

 

文/浅見祥子 写真/阪口 克

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