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田舎暮らしの本 6月号

4月30日(土)
850円(税込)

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小林聡美さんインタビュー「自然の豊かなところに住みたいですけど、そういう時期が来たらいいな……と思うばかりで」

掲載:2022年5月号

飄々としていていつでもマイペース、それでいて場を明るくする人懐こさと、周囲に振り回されない凜としたたたずまいが共存する。『かもめ食堂』も『めがね』も、小林聡美さんでなかったらまったく違った味わいの映画になった気がします。そんな小林さんの最新主演映画『ツユクサ』が完成。役柄のこと、ご自身の田舎暮らしの夢について聞きました。

小林聡美

こばやし・さとみ●1965年生まれ、東京都出身。1982年『転校生』で映画デビュー。主な出演作は『やっぱり猫が好き』『すいか』などのテレビドラマ、『かもめ食堂』『めがね』『紙の月』『犬に名前をつける日』『閉鎖病棟―それぞれの朝―』『騙し絵の牙』などの映画。『聡乃学習』(幻冬舎)などのエッセイ本も多数執筆。

 

台本を読んだときの印象のままに演じる

 「全体的に不思議なバランスの物語です。主人公の芙美(ふみ)さんは断酒中で、重い話なの?と思うと、それほどヘビーでもない。抱える現実を箇条書きにしたら重いかもしれませんが、ホッとする世界観で。自然に理解でき、面白がれるところがあったりして」

 『ツユクサ』はまさにそんな映画。小林聡美さん演じる五十嵐芙美は、海辺の田舎町に一人暮らし。ある日彼女が運転する車に、小さな隕石が落ちる――。

 「でも芙美さんはショックを受けたり笑ったりせず、普通に受け止めます。出合ったものを自然に受け入れられるかどうかで、それを楽しめるかが決まる。芙美さんは過去に悲しみを味わってきたけれど、根本は前向きに捉える力があったのかなと」

 芙美は、松重豊さん演じる警備員の篠田吾郎と出会う。ある年月を生きてきたからこその事情をそれぞれに抱える者同士、不器用にゆっくり距離を縮める。

 「臆病になるというか遠慮しちゃうというか。青春真っ只中!でもないし、大人だから相手のことも考えたり自分も傷つかないようガードしたり。芙美さんにはあのくらいの距離の縮め方がちょうどよかったのかも。私にとっては……忘れちゃいました、そんな衝動。ほっほっほ」

 どんな役も揺るぎなく、そのまんまいるだけみたいに演じる小林さん。芙美という役も、本人の延長線上でその瞬間を生きていると思わせる説得力がある。

 「ふたを開ければ誰でも、人に言えないことや傷ついたことがある。それでも表面は普通に暮らしています。それで自分も演じるうえで何かを特に意識したわけではなく、台本を読んだ印象のままやりました」

 マッシュルームカットやくるくるパーマと役柄によって激変する髪型や、ナチュラルなのに個性的で、まねしてみても何かが違う、みたいな衣装には強いこだわりがあるように思える。

 「髪型は『ベリーショートで』という監督のリクエスト。もはや好きな髪型が自分でもわからないので、言ってもらえたら、やりますよ!という感じ。衣装も全然こだわりがないんです」

 撮影では役の人生を紡ぐことに集中。芙美さんの人生を味わうのはできた映画を観てから。

 「隕石も恋人ができるかもしれないことも、客観的に楽しめる余裕があるといいですよね。その世界に飲み込まれず、私の人生こんなことになってる!と面白がるのもアリかなと」

小林聡美

 

憧れの田舎暮らしにひるんでしまう理由

 今回は伊豆でのロケを味わった小林さん。一方ご自身は最近まで「終の棲家は田舎でなければ」という思いが強かったそう。

 「幼少期、夏休みの思い出などで、田舎は楽しい!と。山をひたすら歩いたり川のそばで遊んだり、なんとかごっこというより自然と触れ合う遊びをしていました。それでも若いときは都会の刺激的な暮らしを好みますけど、いずれ、ゆっくりしてみたいと思うようになる、自然現象ですかね」

 父母の実家がある岩手や秋田で過ごした記憶。また『ムーミン』の著者でフィンランドの孤島に暮らしたトーベ・ヤンソン、『ノンちゃん雲に乗る』の著者で宮城県に移住して農業や酪農に勤しんだ石井桃子、花と動物に囲まれた手づくりの暮らしを営んだ米国の絵本画家ターシャ・テューダーにも憧れた。

 「仕事をしつつ自分のペースで、自然のなかで豊かな時間を過ごす。そんなところは素敵ですね。自分は海より山が落ち着くかも」

 長野の山荘に足しげく通った経験も、その思いを強くさせた。

 「今も年に1度は行きますが、やることがいっぱいで。現実的に1人で田舎暮らしは大変です。家族やパートナーがいれば別ですが、体力が必要。病気になり、1人で倒れてそのまま死んでもいいくらいの覚悟がないと。憧れだけで、イェイ田舎暮らし!なんて言ってられないぞと。最近ちょっとひるんでます(笑)」

 虫は大丈夫だし、動物たちもむしろ姿を見せてほしい。でも実際に暮らしたら、「農作物を荒らすイノシシとか、憎らしいでしょうねぇ」と続ける。

 「自然の豊かなところに住みたいですけど、そういう時期が来たらいいな……と思うばかりで。家もなんとなく探してますが、ぼんやりじゃダメですね。情熱がマックスじゃないのかな。今は、都会にもこんなにいいところがあるじゃないか、みたいな感じになってます。都会暮らしの話になって大丈夫ですか⁉」

 コンサートや美術館と、文化的な楽しみが身近にあるのがいい。夜に出かけるのが億劫になったが、気軽に行けて明るいうちに帰ってこられるのも都会だからこそ。

 そこでせめて鉢植えでも、と野菜づくりを実践中。

 「昨年はジャガイモやレタス、バジル、シソ、トウガラシと地味なものをつくりました。今はブロッコリーを少し。買ったほうが安いし手っ取り早いでしょうけど、花が咲いた!とか、土を掘って、出てきた出てきたと収穫する楽しさとか。食べるのは一瞬でも実るまでにこんなに時間がかかるのを改めて知って。ありがたみを実感します」

 何事も自分のペースで。小林さんのように揺るぎない格好よさと、年齢を感じさせないかわいらしさはどうしたら両立できるのだろう? 

 「自分が居心地いい状態でいるのがいちばん、ですか?」と以前の言葉を引き合いに出すと、「偉そうですなあ」と自分に小さく一言つぶやきつつ、静かに言葉を選び取る。

 「自分にとっての居心地のよさなんて変わって当たり前ですよね、人なので。変わらない部分はもちろんあるでしょうが努力して見つけるのでもなく、気づいたらこれが居心地がいいということになる。だからそのときどきの気持ちが大事じゃないでしょうか。まあトシをとると、瓶のふたが開けられない!なんてことに始まり、できることが限られてきます。もうそれが本当に悲しいんです。こんなんで田舎暮らしとか言ってる場合か?と(笑)」

 なんだかんだ言って、年齢を重ねることを面白がるよう。それは俳優業も同じなのだろうか。17歳でデビューして40年。わが道を切り開く心の内とは?

 「向いてないと言ったら逃げになるかも。でもまあよく続けてきたねと思います。50歳を過ぎたら毎回、これが最後と思って。だから『ツユクサ』が最後かもしれませんよ。ははは」

 

ツユクサ

『ツユクサ』
(配給:東京テアトル)

●監督:平山秀幸 ●脚本:安倍照雄 ●出演:小林聡美、平岩紙、斎藤汰鷹、江口のりこ、桃月庵白酒、水間ロン、鈴木聖奈、瀧川鯉昇、渋川清彦、泉谷しげる、ベンガル、松重豊 ほか ●4月29日(金・祝)~全国順次公開

海辺の田舎町に暮らす五十嵐芙美(小林聡美)。勤め先の同僚、櫛本直子(平岩紙)や菊地妙子(江口のりこ)とのんきな時間を過ごしたり、直子の10歳になる息子の航平(斎藤汰鷹)と遊んだり。ある日、ツユクサを使った草笛をきっかけに篠田吾郎(松重豊)と出会う。芙美と吾郎にはそれぞれ、一人暮らしをする理由があった。
ⓒ2022「ツユクサ」製作委員会 https://tsuyukusa-movie.jp/

 

文/浅見祥子 写真/鈴木千佳 
ヘアメイク/北 一騎(Permanent) スタイリスト/藤谷のりこ 

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