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田舎暮らしの本 5月号

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田舎暮らしの本 5月号

3月1日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

【田舎暮らしエピソード】 自然の宝庫・奥多摩町にはシカやサル、ときにはクマも!? 

掲載:2021年5月号

東京・奥多摩町でおひとりさま田舎暮らしを満喫しているライター・中山茂大。前回クマが出たのは確か2016年のリオ五輪の年の夏。そして2020年、またしても出没した。しかもひとまわりもでかいのが。それにしても五輪の年ごとにクマが出るのは……なんで??

ウッドデッキにクマが⁉ それでも奥多摩はいいところ

奥多摩町に移住して11年。現在は、悠々自適な奥多摩の山奥暮らしと、千葉の母の家とを行き来している。そんな6月のある日のこと……。
午後7時40分。母屋に隣接する別宅のアネックスで仕事をしていると、母屋のほうからものすごい音がした。ドアを開けると暗闇のなか、ぶら下げてあったBBQ用の鉄板がガタガタ揺れている。動物がいることは間違いない。
「コラ!」
怒鳴ると、鉄板の揺れが止まった――。
「フーッ、フーッ」
闇のなかにシルエットが浮かび上がった。その瞬間恐怖を感じ、慌ててドアを閉めた。
4年前に見たやつよりでかい。しかも、こっちに気づいても逃げようとしない。あれは間違いなく、やばいヤツだ……。
ドア越しに様子をうかがうと、「フーッ、フーッ」と荒い鼻息が聞こえる。ドアの前まで来ているようだ。いよいよやばいぞ、これは。
手近のバットを引き寄せて握りしめる。さらに外の様子をうかがうと、再び鉄板の油をなめはじめたようだ。ガタガタ音が聞こえる。
こういうときに限ってスマホは母屋である。そこでパソコンに取りすがり、SNSで地元友 人にメッセージを送る(SNSでSOSとは、これいかに⁉)。
代わりに警察に連絡してもらうことになり、家の中で待機。
ガタガタは鳴り止まない。
なんとか追い払えないものか。静かに窓を開けてのぞいてみる。やはり暗闇で見えない。思い切って怒鳴ってみる。
「コラ!」
ガタガタは鳴り止まない――。
「オイ!」
まだ止まない――。
「オイコラ!」
……止まった。
「フーッ、フーッ」
鼻息とともに、そいつはのっそりと姿を現した。
真っ黒い巨体。顔はひと抱えもありそうだ。
距離は4m。前を横切っていたのが、急に方向を変えて、こっちに向かってくる。
うわわわわ……。
慌てて窓を閉め、カーテンを閉じる。
やべえ。
窓ぶち破って入ってきたらどうしよう。
バットを握りしめて息を殺す。しばらく待って恐る恐るカーテンを開けてみる。とりあえずクマの姿は見えない。なんとかしてスマホを取りに行きたいので、意を決して外に出た。このときが一番緊張した。
電灯をつけるとウッドデッキは散々だった。テーブルがぶっ倒され、モノが散乱してメチャクチャである。
そこで理解した。
この半年ほど、テーブルが齧(かじ)られたり倒れたりしていたのは、すべてコイツのせいだったのだと……。
その後、駐在さん3名がやってきて、翌日以降、猟友会さんが駆除に来てくれることになった。数日後に隣の集落で1頭捕獲されたと聞いたが、コイツだったのかどうかは不明である。
クマの出没は奥多摩でもかなりのレアケース。地元の人が思わず動画を投稿するのはクマかカモシカで、シカやサルに至っては珍しくもなんともない。多くの野生動物に親しんでいる奥多摩は、東京都が誇るべき自然の宝庫なのだ。

以前にもこんな状態が。やはりクマ!?

じつは一昨年7月にテーブルとブランコ椅子の端っこが妙な具合に囓られていたことがあった。そして 周囲には動物の足跡が。役場に連絡して猟友会さんが来てくれたが「アナグマだな。間違いねえ」とのこ とで、一応落着したのであったが……。ちなみにアナグマはイタチの仲 間でクマではない。

次に異変が起きたのは昨年6月初旬のこと。なにか非常に重たいものが乗っかったらしく、テーブルがぶっ倒れて脚が折れていた。今回と同じパターンである。

クマに出会ったら、目を離さずゆっくり離れる
昔から「クマに出会ったら死んだふりをする」というのがあるが、専門家によれば助かる見込みは五分五分で、助かっても大けがをすることが多いとのこと。ベターなのは、落ち着いてクマから目を離さずにゆっくりその場を離れ、木陰などに身を隠すこと。またクマは自分より弱いと見ると襲ってくるので、上着を脱いで振る、傘を持っていれば開くなどして、 こちらを大きく見せることも有効とされる。
奥多摩町のHPには、「万が一クマに出会ったら、走らずに、クマの様子をうかがいながら、静かにクマから離れるようにしましょう(背を向けない)」とある。また「クマ鈴をつけたり、手をたたくなど、自分の存在をクマに知らせる工夫をお願いします」(奥多摩町ビ ジターセンター)とのこと。

2020年はクマの暴れ年⁉
クマは食肉目イヌ亜目クマ科の動物で、鋭い爪と犬歯を持つ。日本には北海道にヒグマ、 本州以南にツキノワグマがいる。ツキノワグマは体長120~180㎝、体重40~120㎏。基本的に単独行動だが、3歳までは母子で行動する。母クマは母性愛が強く、敵と認識すれば排除行動に出るので特に注意。
2020年はクマの「暴れ年」だった。その理由は、エサとなる木の実の不作が第一に挙げられるが、そのほかにも、里山の廃屋に住み着くクマが増えたことで「人慣れ」したクマが現れはじめたことや、2018年は木の実が豊作だったためにクマの繁殖行動が盛んで、そのとき生まれた若グマが親離れし、好奇心にかられて人里に下りてくることなどが考えられるそうだ。

【奥多摩町】
人口約5000人。225.53㎢もの広大な面積を有し、日原鍾乳洞、奥多摩湖、鳩ノ巣渓谷など自然が豊か。近年、自然環境やアウトドアが楽しめる環境にひかれ、「おくたま暮らし」を楽しんでいる人が多い。新宿駅から青梅線奥多摩駅まで約1時間45分。

奥多摩町移住支援情報
空き家バンクによる家の紹介や、町の暮らしが体験できる生活体験住宅などを用意。また、22年間の定住で新築住宅が譲与される「子育て応援住宅」、低額な家賃設定の「町営若者住宅」、家の購入・リフォームに対し補助金が交付される「移住・定住応援補助金」など、若 い世代向けの移住支援が充実している。
問 奥多摩町若者定住推進課 ☎︎0428-83-2310
http://www.town.okutama.tokyo.jp/kurashi/sekatsu/sumai/

担当者より
「都心の喧噪(けんそう)や雑踏から離れた豊かな自然のなかで、 この土地ならではの自分らしい暮らし 方を見つけませんか」

「子育て応援 住宅」は、業者から住宅案が提案されたのち、審査会を経て建築するため、毎年異なる。

家賃が比較的抑えめの「町営若者住宅」は、若い世代の奥多摩定住の第一歩に適している。

文・写真/中山茂大 イラスト/吉野かぁこ

 

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