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田舎暮らしの本 10月号

9月3日(金)
850円(税込)

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定年後に千葉から豪雪地帯の山里へ。夫婦で営むホーリーバジル農園【福井県池田町】

掲載:2021年8月号

千葉県の施設で無農薬のホーリーバジルを栽培していた男性が定年後、不思議な縁で福井県へ夫婦で移住。ハーブティーを中心に製造販売しながら、5年で6倍を超える収穫量を実現した。そして、さらに大きな夢へと向かう2人の経緯とこれからとは――。

種蒔きしたばかりの畑で、つくったハーブティーやアロマオイルなどの商品を手にする杉茂樹さん(67歳)と早苗さん(66歳)。
「結舎」https://musubiya-tea.com/

池田町は福井県の中央内陸部に位置し、標高150〜250mにある県内でも有数の豪雪地帯。総面積の9割が山間地。農業が主要産業で、有機栽培への取り組みが進んでいる。人口約2500人。北陸自動車道武生ICより約30分。

初めて現地を訪ねた当日に無償で使える畑が決まる

 無農薬、無消毒、無肥料で栽培したホーリーバジルをお茶やアロマオイルなどにして販売している杉茂樹(すぎしげき)さん・早苗(さなえ)さん夫妻が初めて池田町を訪れたのは、2015年だった。雪深い2月、鎌倉時代から伝わる田楽能舞(でんがくのうまい)を見学した。そして、「今思い起こしても不思議」と2人が振り返る体験をする。その日のうちに3反(約2970㎡)の畑や農機を無料で使わせてくれる人が現れ、翌日には借家が見つかったのだ。春には、池田町へ移住した。

お客さんがつくってくれた看板が立つホーリーバジル畑。無農薬、無肥料での栽培は、肥料や農薬を使う農法と比べて面積当たりの収穫量は少ないが、味が濃く、香りが豊かになる。

ホーリーバジルはサンスクリット語で「トゥルシー(比類なきもの)」といい、世界で最もよくオゾンを発生させる植物で、空気浄化作用があるとされる。(写真提供/杉さん)

茂樹さんが移住を決めた理由は、町を流れる川の水の清らかさ、渡る風の清らかさ、そしてなるべく農薬を使わないで田畑を生かすという町の取り組みだった。

 2人が池田町を知ったきっかけは、ほかでもないホーリーバジルだった。

 ホーリーバジルは、免疫促進や抗ストレス作用があるといわれるポリフェノールをはじめ、心とからだのバランスを整える成分を多く含み、古くからインドで珍重されてきたハーブだ。

 移住前、茂樹さんは、千葉にある障害者福祉施設で利用者たちと自然農でホーリーバジルを栽培していた。ハーブティーにして販売すると好評で、友人の紹介で知り合いになったなかに、そのハーブティーを愛飲している池田町出身の人がいたという。

「その方から池田でも栽培できないかと相談を受けて、池田町の四季を紹介するパンフレットを見せてもらううちに豊かな自然にひかれ、住みたくなってしまったんです」(茂樹さん)

 ホーリーバジルに理解を持つキーパーソンを得て、住む場所も畑もトントン拍子に決まった。しかし、ハーブティーで収入を得るには、栽培から始めなければならない。茂樹さんは、生活費を稼ぐために、草刈りや田植え、プールの監視員、送迎バスの運転手、雪下ろしなど、頼まれた仕事はなんでもした。

 2年目に公庫から資金を借り、栽培が本格化。だが、品質にこだわる杉さん夫妻は、収穫・洗浄・自然乾燥・ほぐしを経て選別する段階で、約半分を処分してしまう。手間がかかって収益が上がらないなか、町長に相談してみると、町内事業者対象の補助制度について教えられ、昨年、合同会社「結舎(むすびや)」を設立。町や商工会の補助で、アロマオイルやハーブウオーターなどを商品化し、東京にある県のアンテナショップでも販売できるようになった。

「結舎」で製造販売中のホーリーバジル製品。左からハーブティー、アロママッサージに使える精油、芳香剤にもなるハーブウオーター、お茶や料理に混ぜて使えるパウダー。

ハーブティーは、生分解性のティーバッグに詰める。お湯を入れると鮮やかな緑色になり、徐々に茶色くなっていく。

 3反の畑で始めた6年前の収穫量は約3000本だった。それが、現在では2町(約1万9800㎡)の畑で2万本が花を咲かせるようになった。昨年製造した商品はすでに完売。そして、今年から低温乾燥機を導入し、半分処分していた収穫物も100%製品化できる予定だ。

「まだ、ホーリーバジルだけで生活するには厳しいですが、将来は、6万本のホーリーバジルが穫れる観光農園を開きたい」

 と語り合う2人の笑顔には、妥協なくいいものをつくり、消費者に喜んでもらっている手応えと自信がうかがえる。

試行錯誤を繰り返しながら手塩にかけて育てたホーリーバジルのハーブティーを自宅で飲む。いろいろな思いが湧いてきて、自然と笑みがあふれる。

移住時は借家に入ったが、半年後に空き家を購入。200坪の土地を200万円で買い、建物は無料だった。修繕は不要だったという。これも、地元の人とよいコミュニケーションを築いてきたおかげ。

早苗さんは千葉で劇団を主催していた経験を生かし、池田町でも子ども劇団を立ち上げた。1作目の演目は、池田町に初めて来た日に見た田楽能舞からインスピレーションを得たという。(写真提供/杉さん)

茂樹さんが保育園の送迎バスの運転手を辞めるとき、園児からもらった寄せ書き。「宝物です」と言って見せてくれた。いまでも頼まれた仕事はなんでもやる姿勢は変わっていない。

杉さん夫妻からのアドバイス
「やりたいことをやる前に、まずはコミュニケーション!」

移住前に心に決めていたことは、集まりには必ず参加することでした。まずは地域の輪に溶け込むこと。ウチの場合は、アルバイトがとてもよい人脈づくりになりました。また、そうしていると、地域で自分にできることが発見できますし、自分がやりたいことや考えを相手に伝えたとき、自然と後押ししてくれるようになります。地元の人とのコミュニケーションを上手に取ることが大切です。

池田町移住支援情報
“食”を通じた人びとの交流拠点が充実!

池田町食品加工研究支援施設「食LABO」は、まちに受け継がれてきた食文化と、育んできた農産物を生かした町民による商品開発・製造を支援する施設。ここで製造したお菓子やお総菜、瓶詰め食品などはまちの駅「こってコテいけだ」や「いけだマルシェ」で販売可能だ。空地や空き家、仕事、移住前後の生活全般の情報は「いけだ暮LASSEL (くらっせる)」に問い合わせを!

移住・定住相談窓口「いけだ暮LASSEL」☎0778-44-6888

「いけだガイド」 https://www.e-ikeda.jp/iju/

2018年4月に誕生した「食LABO」では、真空包装器やレトルト釜などさまざまな食品加工機器が利用できる。予約制。

「いけだマルシェ」は人びととの交流を楽しんだり、新商品のテスト販売や市場調査などでも活用できるみんなの直売所だ。

 

文・写真/吉田智彦 写真提供/池田町

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