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田舎暮らしの本 10月号

9月3日(金)
850円(税込)

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僕は十種競技/自給自足を夢見て脱サラ農家36年(2)【千葉県八街市】

中村顕治

 

「自給自足」……なんと魅惑的な言葉であろうか……。先ごろ、霞が関の若い立派なキャリア官僚が生活支援金を詐取。月何十万円とかのタワーマンションに暮らし、高級外車に乗っているとニュースで報じられた。百姓の僕は、おい、けしからんじゃないかと言う前に、30歳にもいかない人の人生がかような高級ハデ志向ということに驚いた。いいかい、キミ。人間はネ、ちゃんと地面に足を着けて生きるものなのさ。いっぱい汗をかいて働きながら暮らすものなのさ……。年寄り臭い教訓になってしまうけれど、まっ、こういう方に自給自足なんて話は縁遠いだろうな。でも、一般庶民なら一度くらい、この言葉に胸ときめかせる、キュンとね……。

 自給自足とは、文字通りに解釈すれば、自分が欲しい物、必要な物を、自分の手で作り出し、見つけ出して生きていくことである。経済的な視点で見れば、収支の「収」の部分と「支」の部分、その帳尻合わせをして暮らすということになる。だが、そんな算盤(そろばん)勘定とは全く別なところに魅惑の秘密はある。まさしく人生のロマン。"hungry?" 昔、日清カップヌードルのCMだったか、岩穴暮らしの古代人が槍でマンモスと戦う場面があったと記憶するが、ヒトは苦しいだろうと思いつつもそんな古代に戻ってみたい。心の隅でチョッピリ願い、胸を熱くする。すなわち、ゼニカネとは別な次元で人の心を躍らせるもの、それが自給自足ではあるまいか。

 僕はどうやら一点豪華主義では生きられない体質であるらしい。百姓としての僕が畑で作っているものを指折ってみてもそれがわかる。果樹は30種類、野菜は年間で100種類。飼っているチャボ80羽(以前はヤギ、アヒル、ガチョウもいた)。近隣農家にこのような例はない。年間10品目くらいの繰り返し。そして当然ながら、その10品目に関しては高度なプロの腕を発揮。僕は彼らにかなわない。ならばアンタも品数を絞って専門化に徹すればいいではないか……わかっちゃいるけどやめられない。ぜえーんぶ、やってしまいたい。それが僕の性格。そして、結果として、少品種特化のプロにはかなわないけれど、たいていの物はうちにはありますぜ……。陸上競技に例えて言えば、走る、飛ぶ、跳ねる、投げる、越えるなどの専門じゃなく、ひとつひとつはその道のプロに劣るが、オレ、なんでもやっちゃいます……つまり僕は十種競技の選手なのである。

 

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中村顕治(なかむら・けんじ)
1947年山口県祝島(上関町)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。
 

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