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田舎暮らしの本 5月号

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田舎暮らしの本 5月号

3月1日(金)
890円(税込)

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無理をする技術/自給自足を夢見て脱サラ農家36年(3)【千葉県八街市】

中村顕治

 さて、人を魅了し、心を躍らせる自給自足であるが、現実はなかなかキビシイ。日本の食料自給率は40%台ではなかったか。僕の暮らしもそれとほぼ同じ。肉、魚、好きな珈琲、ビール、調味料、チーズ、パン……店から買って来なければならない品は数多い。しかし、たかが40%、されど40%。困難の中に達成の喜びを感じつつの我が暮らし。その具体策を書く。 

 自給自足の根幹は「無理をする」ということである。例えば、ホームセンターに売り出されるトマト、ナス、ピーマン、キュウリなどの苗を4月に買って、夏に収穫するのはたやすい。だがそれらは、地域による違いはあっても10月になる頃には終了する。師走になってもピーマンやナスが食べられたら嬉しいし、自給自足に一歩近づいたことになる。どうするか……ナス、ピーマンの種を6月の終わりか7月にまき、1か月後に畑に植える。8月と9月は露地のままでOK。10月になったらビニールトンネルを設置。さらに、使わなくなった布団・毛布・カーペットなどを用意する。夕方、これらをビニールの上から掛けて夜の冷え込みを防止。翌朝外す……この作業を2か月余り。これでナス、ピーマンをクリスマスの頃まで食べられる。

 ただし、ナス、ピーマンはあくまでひとつの例にすぎない。「無理をする」作物は他にもたくさんある。1月にハウスに種をまいて4月に収穫するニンジン、同じく1月、ハウスに種をまいて育苗し、春早くに収穫するキャベツやブロッコリー。連日霜の降りる頃、ハウスの中にさらにビニールトンネルを仕立て、マルチングもして種をまき、5月収穫をめざすカボチャなど。また寒さ対策とは逆、暑さの中で遮光ネットを掛け、大根やカブなどをまいて水やりを欠かさず収穫を早めるという手法も頭に入れておこう。

 イチゴはそうした中では最難関。先ほどのナス、ピーマンと同じく、ビニールトンネルの上から古い毛布や布団を掛ける。ナス、ピーマンは12月で終了するが、布団・毛布を掛けたり外したりの作業は翌年3月まで続く。誰もが目を輝かせる特大サイズのクリスマスケーキのイチゴ。あれは暖房がなされ、温度も湿度もコンピュータ制御でもってなされる高級品だ。対して我がイチゴは原始の手法で作られる。立春の頃に手にする赤い実にはやったぜの喜びが募る。

 いかなる作物にも栽培適期というものがある。しかし、それに従うだけでは収穫時期と収穫量は限定される。40%といえども、年間を通した食料確保にはここまで書いてきたような「無理」を通す必要がある。その無理を通すには、第1回のテーマであった「体力」がベースとなる。自給路線を貫こうとするにはのんびりなんかしていられず、僕には1年に1日も休日がない。1月の朝、トンネル内に光を入れるため外しに行った防寒シートの上からはカラカラと音を立てて薄氷が落ちてくる。冷たさで手が半分硬直する。でもね、こうした日々が辛いかといえばそうでもない。食べたい物を食べるための苦労と工夫がもたらす面白さと達成感。それはバーチャルリアリティーとは対極のもの。

  こうした年間を通した自給体制に欠かせないのはハウスとトンネルに使うビニール、そしてパイプだ。僕はかなりの数を持っている。ビニールはゴシゴシ洗って何年も使う。パイプは曲がったり折れそうになったものでも添え木をしたりテープで巻いたりして使い続ける。古いビニールは光の透過率が悪くはなるが、根気よく洗濯すれば何年も役立つ。半分破れたものでも組み合わせをうまくやれば使用可能。これは支出を抑えるためだけでなく、なるべくゴミを出したくない気持ちからだ。

 

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中村顕治(なかむら・けんじ)
1947年山口県祝島(上関町)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。
 

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