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田舎暮らしの本 5月号

最新号のご案内

田舎暮らしの本 5月号

3月1日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

東京から祖父母の家へ孫ターン。家族で育む農ある暮らし【青森県五戸町】

掲載:2021年10月号

かつて祖父母が暮らした五戸町に移住し、不耕起栽培を実践する佐藤さん一家。念願の農家民宿も開業し、農業体験を通して交流が生まれる場をつくっている。子育てをしながら〝農ある暮らし〞を目指す家族の歩みと、これからについて伺った。

佐藤さん一家。岳広さんは埼玉県出身。都内勤務のころは片頭痛持ちだったが、農業を営むようになり体調は良好。「余分なからだの肉もそぎ落とされました」と笑う。

青森県五戸町(ごのへまち)
青森県南部地方の山間に位置するまち。古くは奥州街道の宿場町として栄えた。基幹産業は農畜産業で米、長芋、リンゴ、馬肉、倉石牛、青森シャモロックなどが特産品。東京駅から東北新幹線で八戸駅へ約3時間、八戸から五戸町へは車で約20分。

 

不耕起栽培を実践し、念願の農家民宿を開業

 「子どものころ、夏休みに訪れた祖父母の家で過ごした日々が忘れられなくて。いつか五戸に住み、農業をしたいと思っていました」

 そう語るのは東京都から青森県五戸町に移住した佐藤岳広さん(40歳)。妻の美穂子さん(38歳)にも結婚前より移住に強い思いがあった。学生時代、中国のハンセン病回復村でのボランティア活動に参加。自給自足生活を経験したことで自然に沿う暮らしを送りたいと思うようになったのだ。

 「まず移住に向けてやったのが婚活(笑)。方々に『一緒に農村へ移住してくれる人いない?』と声をかけまくったら、友人から岳広さんを紹介されました」

 2012年、岳広さんと美穂子さんは結婚。当時、岳広さんはⅠT関連会社でシステムエンジニア、美穂子さんは訪問介護事業所に勤めていた。

 「仕事を辞めることに悩んだのですが、長男が小学校に入る前、マンションの契約更新のタイミングで移住を決めました」

不耕起栽培を実践している畑。所有する約1万㎡の田畑のうち、使用しているのは3割ほど。今後は少しずつ面積を広げていく予定だ。

1シーズンに10種類ほどの野菜を栽培。夏はトマト、キュウリ、ズッキーニ、ナスなどが穫れた。希望があれば野菜セットの販売も行う。

農作業に同行し、穫れたてのトマトをかじる子どもたち。左から長女(2歳)、長男(8歳)、次男(5歳)。

 2016年夏、五戸町の風はさわやかだった。

 住まいは、かつて祖父母が暮らしていた家。9年ほど岳広さんの父が空き家の管理をしていたため、比較的状態はよかったが、風呂の修繕などは必要だった。そこで、民宿を営むことも視野に入れ、地元業者に改装を依頼。費用は1000万円ほどかかるため、県の女性起業家向けの低金利の融資制度を活用した。風呂が使えない改修期間は、近所の倉石温泉(現・休業)を利用。美穂子さんは温泉でパート勤めをすることになり、おかげで方言も覚え、地域となじむこともできた。

 岳広さんは有機栽培農家「はる農園」のブログに掲載されていたジャガイモ掘りイベントに参加したことで転機が訪れた。

 「自分の農業へのスタンスを話したら、よほどヤバイと思われたのか(笑)、手伝いに来ないかと誘ってくださったんです」

 青年就農給付金(準備型)を活用し、2年間研修。2019年春に独立し、現在は祖父母が所有していた田畑で米や少量多品種の野菜を栽培している。実践しているのは不耕起栽培。一般的な農法に比べ、野菜の生長は遅いが、農業資材や労力を極力使わない農法は、書物を熟読し、岳広さんが行き着いた農業に対するスタンスである。

日々の食事は自分たちが育てた野菜をシンプルな調理で味わうことが多い。近所からのおすそ分けもあるが、足りない野菜は先輩農家「はる農園」から購入。

消費し切れない野菜は、ぬか漬け、たくあん漬けなどに加工。

 「農業の〝業〞を重視するのでなく、〝農〞ある暮らしが送れたら」と、自分たちの暮らしや、人との交流を大切にしたいと語る夫妻は、2019年夏には念願の農家民宿を開業。近隣学校の修学旅行などの体験民宿施設としても活用され、評判は上々だ。カフェ営業や、地元役場で野菜をたっぷり盛り込んだ弁当も販売する。また、ボランティアで近所に立つ築200年の古民家の管理を仲間としており、そこでフリーマーケットを開催。地域との交流を深めている。

 「いつかは鶏を飼い、卵も自給したいけど、覚悟が足りない。理想の自給自足生活にはまだまだです」と夫妻は言うが、子どもたちとの日常を愛し、日々忙しく暮らす一家の表情は明るい。

農家民宿・カフェ 音水小屋( 青森県五戸町倉石又重  ☎︎090-2796-9974)。
Instagram/@otomizugoya

 

かつては馬屋だった場所を、スギ、ヒノキ、クリなど青森県産材を用いて農家民宿に。改装は地元業者に依頼した。

五戸町 移住支援情報
子育て世帯に向けた生活支援や起業・就農を応援する制度が充実

若者夫婦世帯の家賃助成(月額最大2万円)や、新生児祝金(5万円)、多子世帯支援商品券(5万円)、子どもの医療費助成など、子育て世帯に優しい生活支援が充実。最大100万円が給付される「五戸町の未来を創る起業支援金」や、最長3年間で最大108万円給付される「五戸町青年就農ステップアップ支援金」もある。

総合政策課 ☎︎0178-62-7952
http://www.town.gonohe.aomori.jp/kurashi/sougouseisaku/ijuujouhou.html

図書館などを有する公園「歴史みらいパーク」。

宿泊施設と露天風呂を備えた「五戸まきば温泉」。

住や起業に限らず、なんでもご相談ください!(移住担当・鳥越さん)

 

文/横澤寛子 写真/船橋陽馬

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